「で、誰を連れてく?」
ゾルドフが腕を組む。
「サルタに出すなら、こいつら二人のほかに何人かいるが、今回は偵察メインだろう。多くても二人だな」
「はいニャ!」
フィグが、即座に手を挙げた。
「絶対行くニャ! サルタは任せるニャ! 道もモンスも、全部知ってるニャ!」
「……待って」
ツィムが額を押さえる。
「私だって、サルタぐらい……」
「あんたはどうする、ツィム」
ゾルドフが問うと、ツィムは少しだけ視線を彷徨わせた。
「あたしも行けと言われれば行くけど……ペリイ・ヴァシャイ様から預かった子ミスラ達の事もあるし……森の区の子ミスラを、誰かが見てないと」
「そういうこった」
ゾルドフは笑った。
「ツィム、お前はここを守れ。駆けずり回るだけが冒険者じゃねぇ」
「……はい」
ツィムは残念そうだったが、どこかほっとしたように見えた。
ゾルドフは改めてシャナに向き直る。
「東サルタには、まずフィグを出す。あとはお前さんの側から、学者なりタルなり連れて行きな」
「五院から、魔力測定の研究者が一人同行する予定だ」
シャナは頷いた。
「俺と、その研究者と、フィグ。小回りを利かせるには、ちょうどいい人数になる」
「フィグ、聞いたな」
「了解ニャ!」
フィグは尻尾をぴんと立てて敬礼の真似をする。
その拍子に、喉元の双子石が大きく揺れ、シャナの目の前で一瞬光を強めた。
(……やはり、ただの飾りではない)
シャナはわずかに目を細めた。
癒しの魔力の残り香が、その石からふわりと漏れ出ている。
母が持っていたネックレスと、同じ系統の光だ。
「フィグ、と言ったね」
彼はふと思い立って口を開いた。
「なぜ、外に出たい? 拳を鍛えるだけなら、ここでもできる」
「んニャ?」
フィグは、ネックレスを指でつまんだまま、少しだけ真顔になった。
「母様が、海の向こうから来た人ニャ」
ぽつり、と言う。
「ガ・ナボって遠い国から来て、オズトロヤで戦って、森の区であたしを産んでくれたニャ。外には、母様が見た景色と、まだ知らないものがいっぱいあるニャ」
双子石が、彼女の指の中で静かに揺れた。
「いつか――母様の足跡を辿りたいニャ。そのために、まずは近いところから鍛えるニャ。サルタも、三国も、全部、準備運動ニャ」
シャナは、彼女の横顔をじっと見つめた。
軽口ばかりのようで、その言葉には確かな芯がある。
「そうか」
短くそう返し、今度は自分の話を少しだけ明かした。
「俺も、戦争の中で失われたものを探している。母の宝だ。三国を回り、戦利品や聖遺物の“行方不明”を追うつもりだ」
「母様の、宝……」
フィグの耳がぴくりと揺れた。
「ウィンダスでの一歩目は、フィグの拳と足に預ける。頼めるか?」
「もちろんニャ!」
フィグは、ためらいもなく笑った。
「任せるニャ! シャナの足は、絶対迷わせないニャ!」
「じゃ、三日後だな」
同行していたタルタル書記官が手帳をぱたんと閉じる。
「目の院の研究者と日程合わせをするのだ。装備と準備は、それまでに済ませておいて欲しいのだ」
「了解ニャ!」
フィグが勢いよく立ち上がり――その勢いで、足元のタオルに足を取られかけた。
「みゃっ――!」
つんのめる身体。
床が迫る――その前に、シャナの手がすっと伸びた。
細い手首を掴み、ぐいと引き寄せる。
勢いのまま、フィグの身体が彼の胸元に倒れ込んだ。
双子石のネックレスが、シャナのロングコートのボタンにコツンと当たる。
青い光が、一瞬だけ強く脈打ったように見えた。
「……近いニャ」
フィグが固まる。
金色の瞳が、真正面からシャナを見上げていた。
獣の耳が、耳の根元まで真っ赤になっている。
「足元を確認してから動けと言っただろう」
シャナは、わざと淡々とした声で言い、彼女を支えていた手をそっと離した。
「だ、だって今のはタオルが悪いニャ……」
「ほら、フィグはすぐに人のせいにするんだから!」
横からツィムが割り込んできて、フィグの肩をむんずと掴む。
「――で」
ツィムは、ちらりとシャナに視線を向けた。
「うちの拳、変な使い方したら許さないからね。サルタで怪我して帰ってきたら、真っ先にあんたの文句言いに行くから」
「心配性ニャ」
フィグが抗議の声を上げる。
「ツィムこそ、ちゃんと子ミスラ守るニャよ。帰ったら全部話すニャから、楽しみにしてるニャ!」
「あ~もう! ニャーニャーうるさいわねー!」
そう言いながらも、ツィムは無造作に、軽く拳を合わせてきた。
フィグもそれに拳を重ねる。
ゾルドフは、その様子を見ながらシャナのほうを向いた。
「シャナ」
「なんだ」
「あの子の拳は、外でこそ育つ。だが、雑に使えば簡単に折れる。――くれぐれも、ぞんざいに扱うんじゃねぇぞ」
その声音には、鍋を持った豪放なガルカからは想像もつかないほどの、静かな重さがあった。
シャナは、真っ直ぐその目を見返し、短く答えた。
「約束しよう」
それ以上の言葉は要らなかった。