蛇も19、ケーキに媚薬

「ここにいっぱい、入れられたんだね。」
 妙に冷静な声で伸はそう言い、那唖挫の出口に指を触れる。
 那唖挫は何も言わずにただ耐える。
「当麻のが、どんどんあふれてくるよ。これまで一体何回、いれてもらったの?」
 伸は那唖挫のその部分に指をいきなり二本つきたて、当麻の液体を掻きだし始めた。
 ソファの革に落ちていく白濁の液。男の欲情の証。
 内部をかき回す伸の指に那唖挫の雄は反応し、赤く小刻みに震えては正直な心を主張する。
 それは勿論、当麻にも、伸にも見えている。
 視覚に直接訴えてくる欲望。
 それを見ないでいるのは那唖挫だけだ。
 那唖挫は眼と口をしっかりと閉じて自分の姿を否定している。
 あられもない、しどけない、――――だがそれは限りなく男を誘い続ける艶姿。
 伸が当麻の液体を掻きだす間に、当麻は那唖挫の首筋に鼻を埋め、緑色の髪の毛を何度もあやすように撫でつけた。
 那唖挫の流す快楽の汗の匂いをいとしむように。
「四百年の間、一体、どれだけの男に、ここにぶちこんでもらったの?那唖挫…。」
 そう言って、伸は内部をかきだし続けてきた指をベロリと自分で舐めた。
 何の嫌悪感もなく。むしろ美味しそうに。
「正直に、答えなよ。」
「知るかっ……。」
「そう。やっぱり、自分でも数え切れないほどなんだね。」
 満面の笑顔で那唖挫に向かい、伸は前をくつろげた。
 気配でそれを悟り、那唖挫は思わず眼を見開く。
 その前で、余裕に満ちた顔とは裏腹に、どうしようもなく高まった雄が露になる。
「……ゃ…!」
 小さな、小さな、悲鳴。
 しかし、間近にいる当麻と伸にははっきりとその声が聞こえた。
 こんな場面で、そんな声を立てられたら。
 どんな男でも、陥落される。
「当麻、那唖挫を、離して。」
 姿勢的に挿入が不可能なために、伸が穏やかな声で言う。
 雄の高まりと正反対のその声が、那唖挫に対する伸の執着を示すようだった。
 言われるがまま、当麻は那唖挫から体を離し、怪我をさせないように気遣いながら身動きできない彼の体を床に下ろした。
 何とかあがこうとする那唖挫の体を、伸の腕が止める。
 そのまま、那唖挫を押し倒すと脚の間に体を挟み、那唖挫の窪みに猛り立つモノを押し当てた。
「僕が何百人目の男か知らないけれど、絶対に忘れないでね。僕を刻み込んであげるよ、那唖挫。」
 キザな台詞はあらかじめ用意しておいたものなのか。
 当てられた男の感触に、那唖挫の全身が更に朱色に火照っていく。
 それは羞恥か、屈辱か、欲情か、その全てか。
 ゆっくりと―――
 伸は、その感触をじっくりと楽しむように、時間をかけてそっと入っていった。
 一度、当麻を受け入れさせられほぐれたその部分は既にかきだされた残りの白い液体に濡れ、ジェルの媚薬効果に熱くなり、まるで女のソレのようだ。
 一気に刺し貫いた当麻とは違う、伸の男の動作。
 ゆっくりと、ゆっくりと、侵入してくる伸の執念。
 そのじりじりとした動きは、那唖挫の媚薬に犯された体には勿論、苦しい。
 自分から、ねだりそうになる。
 もっと奥へ、と。
 もっと強く、と。
 無論、口が裂けてもそんなことがいえる那唖挫ではない。
 それを分かっていながらも、伸は静かで穏やかな挿入を続ける。
「お前もイケズだなあ、伸。」
 それを見、当麻は楽しそうに声をかける。
「もっと乱暴にしてやれよ。ドギツイぐらいがちょうどいいって、今の那唖挫には。」
「……何年、僕がこの日を待っていたと思っているわけ、当麻。」
 伸はわずかに息を荒げながら当麻に答える。
「簡単になんて終わらせられないよ。一年そこらで、那唖挫を欲しいと思った当麻とは違う。僕は十年以上ずっと、那唖挫に入れたくて入れたくてしょうがなかったんだからね。」
「ハイハイ、やっと宿願叶ったり…ってわけですか。」
 ずっと自分がそんな目で見られていた事を知り、那唖挫は驚愕に息すら止まった。
 それに気付き、伸が後ろで小さく笑う。
「どうしたの?」
「……水滸、一体いつから……。」
 喘ぎすぎてかすれた声を、那唖挫が絞り出す。
「全然、気付いていなかったんだ。本当に、僕のことをコワッパだと思っていたんだね。」
 嘲るようにそう言って、伸はいきなり己自身を強く那唖挫の奥へ押し込んだ。
「……ぅっ!」
 いきなりの強烈な感覚に那唖挫が爪先を伸の腕に突き立てる。
「コワッパがこんなことする?今、どんな気持ち?」
 那唖挫はただ、肺全体を使った呼吸で伸の与える苦痛と快楽から逃れようとする。
 その白い頬を両手でなで上げ、唾液に濡れる那唖挫の赤い唇を指先でくすぐる。
「い・っ・て・み・な・よ。」
 一言一言区切って言う伸の言葉の合間に挟まる呼吸も熱い。
 ふるふる、と那唖挫が首を横に振った。
「凄いな。俺の媚薬でここまで我慢できるなんて。さすが魔将っていうか…。ここまでくると、意地でも堕としたくなるな、伸。」
 感心しきった様子で当麻がそういう。
「そうだね。」
 伸は首を伸ばし、那唖挫の桃色に染まった白い耳を軽くかじる。
 それだけで那唖挫は全身を跳ね上がらせた。だが、声は立てない。
「那唖挫が堕ちるところ…それを妄想して何回抜いたかな?僕。」
「はは、あるある。男なら。」
 自分をオナペットにしていたと貫いている男に言われ、更にそれを別の男に笑われる。
 どうしようもない怒りにかられるが、媚薬の効果で何の抵抗も出来ない。
 最早、当麻に言われるままに媚薬の成分をPCに入力した自分を呪うしかない那唖挫だった。
「本当に那唖挫は冷たくて気まぐれで。僕の偽者まで作って執着してくれていた那唖挫は、一体どこに行っちゃったんだろうね?」
 耳元で伸が囁く。
「螺呪羅や悪奴弥守といちゃいちゃして、自分の好き勝手な研究で当麻のところに入り浸って、僕の事はほったらかしなんだから。僕がどんな思いをしていたと思ってる?」
 落ち着いて物静かな伸の声音。
 それは、いっそ大声で罵ってくれた方がマシというほどの迫力を含んでいた。
「何とかいったらどうなの。それとも何もいえないほど、気持ちイイ?」
 そうしてつけくわえる。
「ただ、男に入れられているだけなのに。」
 那唖挫は答えない。
 ただリボンに結ばれた彼の充血し痙攣する雄だけが、その状態を表している。
「伸、イかせてやれよ。生殺しそのものだって。」
 当麻が呆れたように言う。
「それは、那唖挫の口から聞きたいね。」
 伸はそう言うと、那唖挫の目元から頬にかけて唇を滑らせた。
 那唖挫の白い指先に、伸の指先が重なる。
 そのまま跳ね除けようとする那唖挫の指を無理矢理握り締め、両手を床に固定した。
 そうして、頬から更に唇を滑らせる。
 唇から、唇へ。
 何とか頭を振って逃げようとする那唖挫の薄く濡れた唇。
 そこに、触れた瞬間、伸の唇から冷笑は消えた。
 歯を食い縛る那唖挫の唇にただ唇を重ねる伸の表情は、一体なんと表現したらよいのだろうか。

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