その後、私、”友原のゆり”は、ある日突然、”ないとなう!”の舞台であるアストライア星に”エリーゼ”として転生したのである。
それも全く、何の説明もなしに。
どういうことかというと、私は8歳まで、本当に、自分を”エリーゼ”、ハルデンブルグ伯爵家の跡取り娘の”エリザベート・ルイーゼ”以外の何でもないと信じて生きてきたのだった。
8歳の時に麻疹にかかるまで。
なんでアストライア星に麻疹があるのかと言われたって、どこの星でも、そういう子どもが罹患する他愛ない病気はあるんだと思う。やたら高熱を発して、ゲホゲホ咳き込むような奴。
私はその麻疹にかかったのだった。それで高熱を発し、生死の境をさまよった。
その際に、走馬灯のように駆け巡ったのが、前世においての”友原のゆり”の記憶なのである。
最初、私は意味が分からなかった。自分がのゆりなのか、エリーゼなのかさえ、しばらくは記憶が混乱して判断できず、奇行に走っていた。
それらは、麻疹の高熱の後遺症という事で片付けられた。実際、伯爵家の両親においても、「ここは誰? 私はどこ?」といわんばかりの私のキテレツ行動は、他に説明がつけようがなかったのだろう。
しばらくして、私はようやく、自分が異世界転生し、ここはUF同人誌の”ないとなう!”の世界観そっくりだということに気がついたのだった。
世界の名前が”アストライア”であること、”神聖バハムート帝国”という国の名前などもそうだが、”神聖バハムート帝国”に王女がいることが決定打になった。
この国の皇帝、アハメド二世には、一人の姫がいる。
風精人と地獣人のハーフの姫で、これ以上なく魅力的で優しいと専らの評判だ。
名前をイヴティサーム・アティーファ。愛称はイヴ。
このイヴ姫は同人誌”ないとなう!”の用意したオリキャラで、zennzaiの書いた同人誌内でだけオリジナルストーリーを持っている。
zennzaiは、UFをこよなく愛している事は間違いないのだが、愛ゆえにシナリオの中で勝手に好きな事をいれてしまう方なそうだ。
そのイヴ姫が帝国の跡取りになるのだが、誰が夫として先導するのだろうかと、父クラウスが母ディアナと頻繁に話題にしていたため、私も気がついたのだ。
ただのMMOへの異世界転生ではなく、同人誌の中であるということに。
しかも、大抵は水先案内人がいたり、ダ女神と呼ばれる人達からの説明があったりなかったりするのに、私は8歳で高熱を発して死にかけるまで、何にも知らされていなかったのである。
ある日突然、高熱の中、夢現でそれを知らされたも同然だったのだから、私も体力がないところにうわごとを言い続けて、相当な奇行に走ったと思う。まあそれも、意識が半分ないような状態だっただろうけど。親にも心配かけただろうけど。
そして、イヴ姫がいる世界だと気がついた事で、私は落ち着いて考えて見た。
----なんのための転生?
私が読んだ事のある異世界転生の漫画や小説は、大抵、酷い目に会って死んだから神様がもう一回チャンスをあげるとか、その逆とか。
神様が何かの目的を持っていて協力して欲しいとか。あるいは、神様じゃないんだけど超越者のようなシステムが、役割を与えるためとか、そういうことで転生して、事情説明があった上での物語スタートだった。
たまたまそういうものばっかりで、中には色々とあやふやな状態で始まる物語もあるのかもしれないけれど、私はそういうものは読んだ事がなかった。全くの偶然だろうけど。
だけど、ただのMMO転生ならともかく、同人誌の世界に転生????
誰が、なんのために。
それに、その--。
これは、zennzaiのかいたどの同人誌本なんだろう。それともネット発表の奴??
それに、その--。言いづらいけど言っちゃおう。
zennzaiって、BLも含めて、大人向けかくんですが……。この世界で、私は何の役割をするために、転生させられたんですか?
大人向けのこと、させられちゃうんですか?
zennzaiがかくような、ピーッ! で ピーッ! で、ピッピピピー!! なことを、連日させられたりとかする運命なの?
私、現在、8歳の幼女なんですけど!!!!!
8歳の幼女にそんなことをするような鬼畜展開が絶対来ないとなんで言えるか。相手はエロ同人も許容範囲の同人女の凄い人なのである。BLもTLも、確かGLも平気だったはずだ。
そんな18禁展開、18歳にならなきゃ来ない! と言ったって、18歳まであと10年しかない。18歳になったら、物語進行のために、ピッピピピッピピピッピピピー! な事を毎日して暮らさなきゃいけないの!?
そう思ったら最後居ても立っても居られず走って逃げたくなったが、どこにどう逃げれば逃げ切れるんだこの話……。
むしろ8歳児が伯爵家の屋敷から逃げてどこともわからない村の中を当てなく走り回ったら、そっちの方が危ないだろう。
それで自室で大人しくしていることにしたのだが、何しろ恐くて仕方ない。毎日恐くて仕方ない。
物語の一体どのフラグから、ピッピッピー! が始まるか分からない。今、始まらなくても、18歳になったら突如桃色展開が来るかもしれないのだ。どこの誰とも知らない顔だけいい変なオッサンや変なニーサンにピーーーーッツ!!
そう思うと涙がこみあがって仕方ない。
そうでなくても、家族で心中した時の記憶や苦痛の感覚が何回もぶり返してくる。
過去も凄ければ現在も恐い、未来はもっと恐い。
そういう状態で、私は日々泣きじゃくっていた。
ウジウジ泣くな! って言われたって、どうしろっていうのよ。
私、まだ恋もしたことない。”ないとなう!”とか漫画の男の子には推しもいたし、ぶっちゃけ萌え!!って感覚も知っているけれど、でも。
好きな男の子もいたことないのに、いきなり、自分がもしかしたらピーーーーーーーっ!展開のために、転生させられたのかもしれないと思ったら、恐いし恥ずかしいし気持ち悪いし、でもどうしようもないし逃げられない。
できるのは、不安がって毎日泣く事だけだった。
とてもじゃないが貴族学院とか行っている場合じゃない。
私は6歳で地元の貴族や名主の子どもが通う貴族学院に入学し、馬車で通学していたが、麻疹にかかってからはめっきり不登校になっていた。
学校に行くほどの体力の回復が最初なかったからが主な理由なのだが、貴族学院に通って、フラグを立てるのが恐かった。
もしかしたら、私読んでないけれど、ムーンライトアターック!!な意味での転生で、貴族学院に迂闊に行ったらどこの誰とも知らないけれど、とんでもないバカボンやボンボンとフラグが立ったり、女の子とフラグが立ったりして、いきなり、ピッピッピさせられちゃうかもしれない。世界線がそうなっているかもしれない。
そう思うと、自意識過剰なんだろうけど、恐くてとても家の外に出られなかった。
それで今日も今日とて、書斎で自宅学習しながら、前世のネットいじめのことを思い出して、泣いていた。
泣いていたら、いきなり知らない風精人の男の子に、木で殴られたんですけど……。
一体、何! どうなってるの!! 私が何したっていうのよ!!
うわああああああん!!