光の海 夢の影
第一部 海の花園
第一章 はじまり
第一話 雪の王宮(2)
マオリは、自分が完全に追い詰められた事を知った。ただでさえ2対1。
そしてハオとイオは、カイ・マラプアにおいて王族を抜かせば最強のカハレ将軍家の嫡男達だ。戦闘は魔力においても武術においても手抜かりなく育てられている事は、マオリはよく知っている。
その二人に……幼なじみの二人に、突如、自分の部屋で襲われる。
あまりの異常事態に目眩がしそうだった。
マオリは、それを必死にこらえ、何とか立ち上がって逃げようとした。逃げると言ったって、窓を破って外に飛び降りるぐらいしか出来るはずもないのだが。
だが、そのマオリを、ハオは横から両肩を掴んだかと思うと床に強く叩きつけるようにして押し倒した。
「ぐっ」
思わずうめき声を上げるマオリ。
ハオは、マオリを重力を借りて上から抑えつけると、黒い着物の前を大きくはだけさせた。ひやりとした外気にマオリは震え、たちまち胸の蕾が固く立ち上がってしまう。
ハオは指先でその尖った尖端を軽く突いた。
「やめろ!」
余裕すら感じさせるハオの動き。
だがマオリの方には余裕などなく、悲鳴とすら思える声を立て、何とか下からハオを跳ね返そうとする。マオリも武術、体術の心得はある。だが、今は--能力ダウンを受けている今は、どうしようもない。
無駄にあがくマオリの体の上にハオがまたがってきた。
ハオに両手足を封じられるマオリ。
「何が目的だ、ハオ。言えっ!」
そこに至ってマオリは、苦しげに喘ぎながらハオを詰問した。
ハオは黒髪を揺らしながら、薄く笑うのみだった。
「何笑ってやがる……俺を誰だかわかっているのか!」
「勿論、分かってますよ。王子。あなたは、信じられないぐらい自分の事をわかっていませんがね」
「何だと--」
「今から、私があなたにすることを、口外しない方がいい。死ぬほど恥ずかしい思いをしたいなら、私は構いませんが」
「ハオ!」
「私はね……したいからするだけです」
ハオはそう言って、辛うじてマオリが上半身に纏っていた着物を、一気に両手で力任せに破り捨てた。
マオリは声も出なかった。
強靱な体力と、超能力を基とする魔法を使えばそれぐらいは、容易い。それは分かっていたが……。
一瞬、マオリが体を硬直させた隙に、ハオは、口の中で呪文を唱えた。余りにも素早く隙のない詠唱。
それでもマオリは、無詠唱の魔法を使い、ハオの体を気弾で突き飛ばそうとした。頭を冷やせばそれぐらいの魔法は今でも使える。
だが、そうさせなかったのが、イオだった。
髪の長さと雰囲気以外は、兄に酷似したこの弟は、いつの間にかマオリの頭上に回り込んでいた。すぐそばから、マオリの首筋をなで上げる。
「おかしな真似をしたら、命が危うい……気をつけろよ、王子」
イオは、マオリが魔法を使うタイミングを呼んで、首筋を撫でて威嚇した。魔法の数々には切れ味の鋭いものもある、冗談ではない。
「イオ、お前までっ! お前ら、何考えてやがんだ。兄弟して、死刑になりたいかっ!!」
「バレたら死刑になるのはあなたでしょ、王子。双子の妹と、天罰を受けるようなことをしたんだ。まずは、兄さんから罰を受けてくれよ」
「……っ」
「兄さんは、親父の事がある前からずっと……」
そのまま、イオは、言葉を濁したのだった。
それ以上は何も言わなかった。
そうしているうちに、ハオは体をずらすと、マオリの下半身にまで手を伸ばしていた。イオがマオリの両腕を上から押さえ込む。マオリが叫ぶ。罵詈雑言をわめき立てる。
だが、カハレ兄弟はそんな事はものともしなかった。
程なく、ハオは、マオリの全身から衣類を全て破き捨てた。
マオリは、ヒナノに似た雪のように白い裸体を、冷たい床の上に横たえる事となった。
しっとりと滑らかな体を、ハオの掌が這い回る。
体の隅々まで調べ尽くすような動きを、マオリは唇を噛んで耐えた。
「綺麗な体だ……想像以上に」
やがて、ため息をつきながら、ハオがそう言った。
マオリは、屈辱を感じたが、言い返す事さえも苦痛で、目を閉じて無言だった。
ハオはマオリの体の中心に指を這わせた。
何の反応も示していない雄の証。そこに、指を絡めて、ゆっくりとしごき始める。
「姫宮のことがあったのなら、王子もこの先どうなるかは、わかるのでしょう?」
「……」
姫宮……ヒナノ。
今となってはたった一人の家族。
「本当に不実で不埒な人だ。そんなことをしなければ、呪われる事もなく、私に襲われる事もなかっただろうに」
襲っているという自覚は、ハオにはあるらしい。
「すみません……王子。最後に言わせて貰います」
「……!」
ハオが、何を言う気なのか--マオリは思わず目を開いた。
その琥珀色の瞳を何よりもいとおしむように見守りながら、ハオが言った。
「愛してますよ」
それが嘘なのか、本当なのか、マオリにはわからなかった。嘘でも本当でも、どんな意味でも、恐ろしいほどの絶望を、マオリは味わった。マオリは今更ながらに、気がついていた。自分は、ハオの気持ちを多分知っていた。知っていたが、わからないふりをしていたのだ。もしもわかってしまったのなら、それは、無自覚でいるからこそ心地よい、子供の世界から離脱する事を意味するから。だから。
国王になる身でありながら、自分はいつまで、子供でいたいと思っていたのだろうか--そのことにも、絶望を感じる。
その悲しみが顔に出たのだろう。ハオは、優しく笑った。
「そんな顔をしないで」
そう、マオリの耳元に告げた。耳に声がかかっただけで体がびくついて、マオリは思わず顔を背けた。
ハオは、残念そうな息をつき、マオリを嬲る手を早め始めた。彼の右手が、マオリの急所に絡みつき、緩急自在にしごきたてていく。そんな無礼をされているのに、マオリはハオをどうする事も出来ない。弟のイオに、床に両腕を固定されたまま、首を左右に動かす事が精一杯だった。
ハオは、悲しそうな声でこう言った。
「ずっとあなたをこうしたかった……」
その想いが遂げられたのに、何故そんなに悲しそうなのか、マオリはわからなかった。泣きそうだった。泣かない事が精一杯の抵抗だった。
やがてマオリの体に限界が来た。
生理的な快楽には誰だって弱い。マオリは、どうすることも出来ないまま、ハオに体を制圧されていく。
ハオの与える快楽と欲望は、どこまでもマオリを責め立ててきた。次第に息が荒くなり、裸に剥かれた体が汗ばんでいく。それを自分ではコントロールが出来ない。自分が自分でなくなっていく感覚。
「やめろ……やめ……ろ……」
うつろに聞こえる自分の声。
「ハオ! 今ならまだ間に合う……やめろ!!」
そう怒鳴ったものの、それを虚勢と、ハオは受け取ったようだった。ハオは、マオリの脚の間に自分の顔を落としていった。
ハオの舌が、マオリの雄の尖端に這う。そのあまりの快楽に、マオリは声を立てそうになった。必死に理性で拒もうとするが、もう体が先走るのは止められそうもない。
「んっ……あぁっ」
自分でも信じられないような甘い声を立ててしまい、マオリは顔を赤くした。
それに気を良くして、ハオはゆっくりとマオリを口に含み、舌先で嬲りはじめた。
どうすることも出来なかった。
目をそらすと、今度は、イオの冷たい視線が自分を見下ろしている事に気がついた。
ハオの弟--どんな気持ちで、どんなつもりで、今自分を組み敷いているのだろう。
それを考えると、いたたまれないような、悔しいような、今まで知らなかった感情がこみあがってくる。
「嫌だ」
そう言った。それだけが、抵抗だった。
「嫌だ……」
こんな現実は。こんな状況は。こんな仕打ちは。
我慢ならない。絶対に嫌だ。嫌なのに……。
快楽と理性のせめぎ合いに理性が負けていく。こみ上がってくる熱い感情と快楽を防げるものをマオリは持っていない。ただただ、ハオの指先と舌に翻弄され、自分で自分をコントロール出来なくなっていく。
自制心のセーブ出来ない快楽の証。
それが体のうちからほとばしる。
どうすることも出来ないまま、マオリは、ハオの口の中に放った。
あとがきなど
読んでいただきありがとうございます。
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