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花散らすケダモノ Never Ending Darkness

 終わりの時は来た。
 だがこの心は終わらない。
 想いが切られる事はない。

 征士はそう信じて、桐の庭で悪奴弥守へ別れを告げる。
 そして、螺呪羅と那唖挫にも向けて、頭を下げた。

「すまなかった。」

 三魔将はこの若すぎる男を---もう少年ではない。二十歳だ---を見つめていた。

「取り返しのつかない事をしたと思っている。一生かけてわびさせてくれ、悪奴弥守。そして---お前とまた会いたいと、言わせてくれ。」
「光輪!」
 悪奴弥守の声は、涼やかだった。
「俺がお前を許す、許さない、そんなことを言うと思っているのか?」
 言葉を失う他の男達の中で、悪奴弥守は彼らしい闊達な笑いを浮かべた。
「俺はお前が命ある限り、最後まで見守り続ける。最初にお前に呼ばれた時からそのつもりだった。それは、本当に最後の別れの時が来るまで変わらない。」
 そう言って取り出したのは孝の宝珠。
 木漏れ日に輝くそれに続いて、那唖挫が悌の宝珠を取り出した。螺呪羅が忍の宝珠を征士に見せる。
 続いて、征士も礼の宝珠を見せる。
 四つの宝珠が光とも闇ともつかない桐の梢の下できらめいた。
「……ありがとう。」
 こんなふるまいをして、同じ鎧戦士として認めてくれる男達に、万感の思いをこめて征士は言う。
「悪奴弥守、私はいつか、お前の全てを愛し、誰よりも愛する男になることをここに誓う。今は離れても、私たちには未来という可能性がある。だから---」
 苦しかった。切なかった。だがそれ以上に、愛しかった。
「いつか私とともに生きる事が出来るその日まで、別れよう。だが、私はいつか誰よりも、お前にとって大切な存在になりうる。それだけは、分かって欲しい。」
 悪奴弥守は笑った。
 螺呪羅も那唖挫も別の意味で笑っている。
 征士は若い。若すぎる。
 そしてその運命は光とも闇ともつかないのだ。
「……阿羅醐様も許して下さるだろう。」
 悪奴弥守はただそう言った。
「阿羅醐よりも、私は--」

 阿羅醐を呼び求め狂い死にしていった悪奴弥守。
 それをいつか超えて見せる、自分にはそれだけの力があると確信出来るその伸びやかな光の存在。
 光が求めた闇。闇に落ちた光。
 それは何とも形容しがたい。
 やがて悪奴弥守を螺呪羅が促して、三魔将は宝珠を使い世界を渡る。
 それを見送った征士には、光と礼節の誇りがあった。
 生涯をかけて、悪奴弥守を愛し続けるという、その直線的な生き様が決まった瞬間だった。

Never ending………

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