沼にはいつも陰鬱な霧が垂れ込めている。
晴れる事のない霧に囲まれた広い沼。
一年中花開いているのは色とりどりの睡蓮。
その「迷夢」の名を冠する沼のほとりに、ロテールはメノエを連れてきていた。
「懐かしいわね」
アトルガンへの航海が許可された事は何年前の事だったか。その頃は、新しい土地への興奮のままに、マップの隅から隅まで走り回ったものだった。
昼とも夜ともつかない、濃霧の中の花を見つめながら、メノエはロテールとの出会いの頃を思い出した。
それこそ、ロテールと初めて出会ってPTを組んだのも、アトルガンに初めて来た頃の事だった。あれから、随分と時は流れ、それこそ死ぬような目にあったこともあるし、死にたくなるようなこともその逆もあった。その間、ずっと、ロテールがそばにいた。
メノエは、ヴァナ・ディールで過ごした時間の事を考えながら、ロテールを振り返る。
「それで、どうしたの? シャイル装束で来て欲しいなんて……。今なら確かに、ここの敵は恐くも何ともないけれど」
メノエの隣でロテールはフォエナリアを背負ったまま黙って立っている。
相変わらずの漆黒の装備は、今時の暗黒騎士という名にふさわしいものにそろえているが、メノエが指定されたのはまさかのシャイル装備。いきなりその格好で来いと言われてきてみたが、何故かロテールは黙っている。
実際に、二人とも、モンスターが素通りするレベル帯ではあるのだが、装備の防御力が気になった。
「……そこの花」
ロテールはいつになく無口だったが、やっと話し始めた。
「睡蓮のこと?」
「綺麗だろう? あの花の蜜を、手に入れる事が出来たんだ」
「ええ!?」
メノエは驚いた。
「それは……ペプレド蜂を使うとか? どうやるの? どんな効能がある?」
「蜂を使うかどうかは俺も知らない。だけど、蜜を喉に塗る事で、歌の効果が非常に高まるらしい」
「歌の?」
シャイル装備を着ているだけあって、メノエは詩人である。真面目に詩人一筋でやってきただけあって、そう言われると弱かった。
「そうだ。マドリガルの効果が、30分だけ高まるらしい。一度試してみないか?」
そう言って、ロテールは真顔で蜂蜜の入った小瓶をモグバッグから取り出して、メノエに渡して見せた。
メノエは、思わず小瓶に見入った。マドリガルの効果が高まる蜂蜜。もしもそれが、これから恒久的に手に入るのなら、どれだけ効率が高まるだろうか。その秘密をロテールは知っているらしい。
ロテールはレベルから言っても、功績からいっても、アトルガン皇国から大変当てにされていることはメノエも知っている。その関係で、皇国が開発した何かかと、メノエは想像した。
マドリガルを効率よく歌ってレベルを高めたいが、アトルガン皇国のあやしい儀式や政治には参加したくないのが本当のところだ。
ロテールにこれ以上突っ込めば、ややこしいクエストやミッションに強制参加させられるかもしれない。
悩みどころである。
それで、ロテールもメノエに話しづらくて黙っているように見えた。
「マドリガルの効果が高まる蜜? あやしそうだけど……興味はあるわ」
メノエは躊躇いがちにそう答えた。
「一つくれてやる」
ロテールは、メノエの方に蜂蜜の小瓶をすっと差し出した。メノエは、驚いて小瓶を見つめた。戸惑いつつも瞳は輝いている。
「いいの?」
「お前が欲しいなら。……そのかわり」
ロテールは、いきなりシャイル装備の肩を強く抱き寄せてきた。
「きゃっ」
メノエが抵抗する暇もない。
暗黒騎士の腕の中にメノエのすらりとした姿は抱き取られ、次の瞬間には、メノエは唇を貪られていた。
「やっ、何っ……んっ……ぁんっ……」
メノエのモデルのような長身と豊満な胸をロテールがまさぐってくる。口の中は縦横無尽に舌に舐められて息もつけない。だが、メノエは咄嗟にロテールに躊躇をあらわにした。
「嫌か? さすがにタダって訳には……」
「そ、それはそうだろうけど、それなら先に……」
胸から腹にかけて乱れたシャイル装備を調えながら、メノエはロテールに反抗的に言った。
「先に蜜をちょうだい。効能を試してからよ、何もかも」
「……」
ロテールは一瞬、深く考えたようだった。だが、後には退けないと思ったらしく、黙ってメノエの手に蜂蜜の小瓶を握らせた。
「それなら、試してみればいい」
メノエは受け取った小瓶をしげしげと見つめ、早速、試してみようと思ったが、途端に気がついた。
「ロテール。ここの敵、私達じゃ攻撃が当たって当たり前じゃないの。どこか他のところで試しましょうよ」
「……それもそうだな」
ロテールは頷いた。相変わらず寡黙である。余計な事を喋ろうとしないのは、皇国から何か言われているのだろう。
そう判断したものの、メノエは早速マドリガルの必中率が上がるかどうか、試したくて仕方ない。
---そのあと滅茶苦茶アンバスした!!!!!---
無論、蜂蜜を使用してである。
とろりとした黄金の蜜を楽しみつつ、メノエは気分良く歌い続けた。ロテールはフェイスを呼ぶ事もせずに難なく敵に勝った。
「検証してみればはっきりするだろうけど、一回じゃ分からないわね。だけど、喉の調子は確かに良かったし、無難に勝てたんだから、効果は高いのかもね」
ジュノのレンタルハウスに帰った後、メノエは自室にロテールを招いてそう言った。
上機嫌である。
メノエにしてみればアンバスで十分稼げたし、もしかしたらロテールからこれからはマドリガルの蜜を貰える、もしくは買い取れるようになったと思ったのだ。
「メノエ」
「え、何?」
「……言わなきゃ分からないか?」
ロテールに聞かれ、横目で睨まれ、メノエはやっと気がついた。
思わず顔を真っ赤にしてしまう。
ロテールとそういうことをするのは、実は初めてではない。この数十年の間、色々あった。だが、最近はまるっきり色っぽい話題はなかったのである。
だから、油断した。
このまま何事もなくごまかせないかと。
「いいけど……でも、乱暴にしないでよねっ」
「乱暴?」
「ロテールは、自覚ないの? がっつきすぎなのよ」
メノエはそう言って、ベッドに腰掛けなおすと、まず頭のシャイルターバンを外すと、それから胴のマンティルを脱ごうと自分で手をかけた。
「待て」
ロテールは、自分も重装備を脱いで近付いてくる。
「何」
「俺が脱がす」
「……だから、そういうところが……」
思わず顔を赤くしながら、メノエは目をそらした。
「なんだ?」
「わからないなら、いいわよっ」
そう言って、メノエは思わず目をつぶった。目を閉じて体を硬くしているメノエに、ロテールは再びキスをした。ゆっくりと、唇を味わい尽くすようなキス。
「甘くない?」
思わず、頑健な胸に頬を寄せてしまいながら、メノエは尋ねた。
「……甘い。女の唇は、元々甘いものだ」
「暗黒がポエムみたいなこと言わないでよっ」
「誰もポエムなど。ただの事実だろう?」
ロテールの手がシャイルマンティルを脱がしていく。胸を覆う布地を取り去り、弾むように胸が露出するのを凝視した。
「そんなに見ないでよ」
抵抗する事も出来ずに、メノエが恥じらいながらそう言った。
「見なきゃ何も出来ないだろ」
ロテールはそんなことを言いながら、メノエの足からシャイルクラッコーを抜く。
そして手からもゲージを抜いた。
残された両脚のサラウィルに手をかけると、メノエは明らかに体を緊張させ、背筋を強ばらせて目を背けた。
「そんなに硬くなるな、俺もやりづらくなる」
「だ、だって……こんなの」
メノエが何か言おうとした時に、姿勢からいってサラウィルを脱がせない事に気がついたロテールが、軽く肩をトンと突き飛ばした。
メノエはあっさり、ベッドの上に転がって、足を空中に放り出す格好になった。
途端にロテールが、サラウィルを膝の辺りから引っ張って、実に簡単にメノエを全裸にしてしまった。わずかに胸と腰の辺りに下着がまとわりついているが、それも恐ろしい勢いで剥いで行く。
「ま、待って……」
「何を?」
「だって、私……」
そういえば、こういうことを最後にしたのはいつだっただろう? しばらく、全く何事もなかったのだ。
日々--何をそんなに忙しくしていたのか、分からないけれど。異性と肌を重ね合わせる事さえも、忘れていた。
「メノエ」
ロテールは全裸の彼女を裸の自分で押さえ込みながら尋ねた。
「好きだと、言えばいいのか?」
「……」
メノエはこれ以上なく赤くなった。それから、困ったように視線を左右に動かして、そのあと黙って頷いた。
好きだと言われる事は好きだった。
少なくとも、言われずに強引にことをすすめられるよりずっといい。
それが嘘か本当かなんて、メノエには分からないのだけれど。
「好きだ」
そういうふうにロテールはメノエの長い耳に囁いた。
メノエはロテールの頬から耳にかけて優しく撫で上げながら、彼の事を許してやることにした。
ロテールの長い指が、メノエの体を辿っていく。
優美な曲線を描くエルヴァーンの女性の体。女らしい丸みを帯びた曲線をたどり、やがてロテールはメノエの豊満な胸に触れた。
「んっ」
メノエが微かに声を立てる。だが羞恥があるためそれ以上の声が出ない。
そのことに気がついたロテールは、ゆっくりと豊かな曲線を描くその全体を掌で包み込み、味わうような動きで刺激を与え始めた。
無骨に見える大きな掌は、どれだけの破壊的な攻撃力を持っているか分かったものではない。だがこの時は、先ほどの戦闘中の鬼神のような動きを全く思い出さず、ただ優しく甘やかすような手つきでメノエの快楽を引き出そうとした。
メノエは、両胸の尖端を細やかな動きで愛撫され、思わず吐息を漏らした。
「んっ……んんっ……」
「メノエは色白だからここも綺麗なピンクだな」
快楽に身もだえ、火照り始めた体を舐めるように見回しながらロテールが言った。
女らしい曲線を描く、豊かな胸を今独り占めしているのが自分だけだと思うと、ロテールも次第に息が荒くなってくる。
だが、彼女の前ではまだ余裕を持っていたい。
「メノエ」
「んっ……ぅん??」
細かい動きを追っていたが、不意に、甘やかな刺激が来なくなる。おずおずと目を見開くと、ロテールが先ほどの小瓶にそっくりの瓶を持ち、メノエの胸の上に持ってきていた。
「えっ……ちょっと待って。待って。やめて!?」
メノエはびっくりして、小瓶を取り上げようとした。
「もったいない! そ、それは……」
「大丈夫だ。これはただの蜂蜜だから」
ロテールがそう言って、メノエの胸の上に蜂蜜をたっぷりぶっかけた。
黄金のとろみを帯びた蜜が、メノエの乳房全体に広がっていく。その生々しい光景に、ロテールは思わず唇を舐める。
「ロテール! 何を考えているのよ!」
「お前のこと」
ロテールは正直にそう言った。
メノエは何も言い返せなくなる。慌てているうちにロテールは再びメノエを組み敷いて、胸元から蜂蜜を舐め取り始めた。
ただでさえしっとりとして手触りのいい色白の肌。
それが、自分の愛撫で萌えるように火照り、桜色になっているのを両目で見つめながら、胸の柔らかな部分を手と舌で味わっていく。
尖端を尖らせた舌で転がせば、メノエは面白いように鳴き声を漏らし、ロテールの頭に両手を回してきた。
「ロテール……私……」
「綺麗だ」
「え……?」
「メノエは胸が大きくて、とてもエロくて綺麗だと思う」
ロテールは、乱れ始めたメノエにそう告げて、敏感な腰から臍の辺りまでをなで下ろした。
メノエはくすぐったさと快感に身をよじり、ロテールの長い首に指を這わせる。
ロテールの手は、メノエの体を自由自在に這い回り、優しい愛撫を繰り返した。何しろ、先ほど、ロテールは乱暴だったと言われている手前--。
「エロとか、そんなっ……んんっ」
そのとき、エルヴァーンの長い指が、メノエの一番敏感な部分に触れてきた。
その部分は蜂蜜をこぼした訳でもないのに、既に十分に濡れて快楽を示していた。
そのことに気づいて、にやりといやらしくロテールが笑う。
「メノエは凄くエロい。優しくて賢いのに、エロいなんて反則だ」
「反則……?」
何がどうしてそんな言われ方をするのか分からず、メノエは半泣きでロテールを見上げる。
元々感じやすい性質ではあるが、そこを手で探られると、旧知の仲であるだけに、恥ずかしくていたたまれない。
それなら誰に触られていいのかというと、自分でもさっぱりわからない。
ロテールの指がその繊細で複雑な構造をした部分を、水音を立てながらほぐしていき、メノエは声を殺して快感を耐えていた。
「メノエ----」
やがて、ロテールが身を起こして、その頑健な体に相応しい、硬く反り返った雄を見せつけてきた。
メノエは熱っぽい瞳でそれを見て、自分の指先を絡めた。
白い指先でその赤黒い熱を持ったものをなでさすり、こすりあげると、自らそれを脚の間に導いていった。
ロテールはメノエの許しを確認してから、そっと体を進めていった。
「ぁっ……あぁあんっ」
それでも、衝撃があったらしく、細腰を揺らしてメノエは嬌声をあげる。
そのままロテールは、メノエを組み敷いたまま大きく体を動かして彼女の中を鋭く抉りあげた。
屠るような動きでメノエの優美な肉体を追い詰めていく。
メノエは咄嗟に逃げるような仕草をしたほどだったが、やがて体の内側からこみあがってくる熱烈な快楽に負け、はしたない声を際限なくあげて、ロテールの胸に抱きついていった。
身も世もないほどの快楽と、激しい律動の末に、ロテールはメノエの中に、自分の欲望を激しく炸裂させたのだった。
「や、ぁあ……っ」
ロテールがメノエの中から自分を引き抜く時さえも、メノエは切なげな声を上げて震えた。
それは本当に煽情的で、ロテールの悪戯心を煽る情景でもあった。
メノエの体は汗だけではなく蜂蜜や、何ともつかない涙に濡れて、脚の間からは白い液体まで流していた。
それを見ているだけで、エルヴァーンの体は反応してくる。先ほどあれほど追い詰めたばかりだというのに。
「いいか?」
ロテールは再びメノエのしなやかな体に手をかけた。
「ん……」
メノエは、大人しく身を起こして、ロテールの様子を窺った。
ロテールはベッドの上で膝立ちになっている。
その意図を、メノエは理解した。恥ずかしそうに最初は目をそらしていたが、自分からだんだん彼に近付き、その雄の部分を口に含んだ。
甘いと言われた唇いっぱいに、その原始的な欲望を示す部分をくわえ込み、ゆっくりと褒められた胸に包み込む。
胸で包みながら唇で愛撫する。
「んっ……はんっ……はむっ……」
「メノエ……辛かったら無理するなよ……」
ぴたりと、メノエの動きが止まる。
彼女は悪戯っぽく上目遣いでロテールに尋ねた。
「本当に? やめていいの?」
「……いいわけあるか」
「どっちなのよ、もう……」
「流石だな……口の動きとか……」
「流石だなんて……どういう意味よ……もうっ……」
自分で一心にロテールに快楽を与えながら、メノエは身もだえる。
自分からこんな行動を取るなんて、自分でも信じられなかった。
「メノエは何をさせても上手だと言ってるんだ……」
「やだっ……いいよ、もう……このまま出しちゃって……」
やがて欲望の液が、メノエの口と胸にぶちまけられる。メノエは、一瞬、びっくりしたように目を閉じたが、その液体をかけられたことに、嫌悪感を示す事はなく、指先に飛び散ったそれを、無邪気な仕草で舐め取っていた。
「ねえ、ロテール……」
その後。
メノエは、ロテールに当然のことをおねだりしはじめた。
「出来たらでいいんだけど……ていうか、必ず欲しいんだけど……さっきのマドリガルの蜂蜜」
「メノエ、お前……」
「マドリガルの効果が高まる蜂蜜、皇国が開発したの?? それなら、どういうルートがある?? 買い取れるなら、何だって、教えて!!」
「お前……」
「商売になるかもしれないし。そうでなくても、これからPTするとき働くから! 滅茶苦茶動くから! なんだって頑張るから! だから教えてよ」
「お前……」
ロテールはあきれと困惑をほどよく混ぜた顔で、こう言った。
「まだ気がつかないのか……あれは、ただの蜂蜜だ」
「は?」
メノエは暫く理解できなかった。
「……は、蜂蜜……?」
「あえていうなら偽薬だな。スパシーボで、メノエの歌の効果が高まったとメノエが本気で信じ込んでいたんだ」
……。マドリガルの効果が高まるなんて、誰もが夢見る願望に釣られ、ついうっかりそんな都合のいい嘘を、信じ込んで、パ×ず×までサービスしてしまったらしい……。
「なんて嘘つくのよ!!」
当然メノエは怒った。怒りにまかせて、ロテールの頭をどついた。
「いや……」
「なんで!? 何がしたかったのよ、ロテール!!」
「何って……見たままだが……」
その台詞にはメノエは呆れてナニも言えない。
ただやりたかったというだけか。
「最近……昔の形の装束が流行ってるだろ……」
「そういえば……そうだけど」
「あの頃……初めて会った頃」
ロテールは気まずそうな顔で話を続けた。
「お前、よくシャイル装備来ていて……いつも明るく笑って、どんなときも愚痴言わなかった。お前がいるから任せられた戦い……何個もあった」
「う、うん……」
「あの頃も……あったろ、こういうこと」
「あったけど……でもそれは……なんかノリっていうか……」
本気だったけど本気だった訳じゃない。なんていうんだ、ああいう関係は。
本気というには、お互いあんまり若すぎたし、その場の情や流れに、任せてしまった勢いなどもあったし。
照れくさすぎて話せることなどない。
「そういうことを思い出して……またシャイル着ているお前に会ってみたいとか思って……そうしたら、あの頃の……」
そのままロテールはまた黙りこくってしまった。
何となく、本気を感じたメノエだった。
「分かったわよ。でもそれなら、ヘタ臭い小細工しないで……素直に言ってくれればよかったじゃない。そうしたら、私に殴られる事もなかったのに……」
「……そうだな」
ロテールは苦々しく笑った。
メノエはロテールが転ばしている蜂蜜の小瓶を一つ取った。それから、優雅な仕草で振り返り、彼に向かって微笑んだ。
「もう一曲、歌う?」
「ああ……頼む」